世界中に衝撃を与えたカルト映画の開祖・アレハンドロ・ホドロフスキー監督の23年ぶりの新作。日本中のコアなファンが待ち望んだ「リアリティのダンス」、ついに日本公開。
ネタバレ
映画「リアリティのダンス」のネタバレについてお話しするわけだが、まずこの映画についてネタバレというよりも、監督であるアレハンドロ・ホドロフスキーについてのネタバレをしていきたいと思う。
ホドロフスキー監督は1929年チリ生まれの85歳。メキシコで出会った日本人禅僧に師事し、日本に対しての造詣が深い。「エル・トポ」「ホーリー・マウンテン」「サンタ・サングレ」など世に放った数々の作品は神秘や精神世界をシュールに描き、ジョン・レノンやアンディ・ウォーホル、ミック・ジャガー、日本では寺山修二など、各界の著名人たちに影響を与えた巨匠である。
「AKIRA」の著者・大友克洋とも親交が深いこともネタバレの一つ。
心理学・哲学を学び、フランスではコミック原作者として30タイトル以上のコミックが発売され続け、また、タロット・リーディングや、サイコマジックと呼ばれるホドロフスキー独自の心理療法活動なども行っており、若い奥さんがいる。この他にも語りつくせないほどの肩書を持つ超パワフルおじいちゃんなのである。
そんな、ホドロフスキー監督が新作映画「リアリティのダンス」とともに25年ぶりに来日し、100人のファンと座禅会を行ったことも話題になった。
また、「エイリアン」「スターウォーズ」などのSF映画に多大なる影響を及ぼしたと言われる、世界一有名な〈未完の作品〉「DUNE」。ホドロフスキー監督によるSF小説「DUNE」の映画化がなぜ頓挫してしまったのか、関係者の証言や当時の資料を交えて語れなかった真実をドキュメンタリー映画にした「ホドロフスキーのDUNE」も6月14日から公開される。
今年は、アレハンドロ・ホドロフスキーフリークにとっては夢のような時間になりそうだ。
感想
「エル・トポ」がアレハンドロ・ホドロフスキー監督初体験、という人は多いと思う。ご多分に漏れず私もそうだ。
20代で、初めて寺山修二や唐十郎の世界に触れた時、「このような世界があったのか!」という感想を持ったが、「エル・トポ」を見た時に、彼らがアレハンドロ・ホドロフスキー監督によっていかに強い影響を受けてきたか、ということが良く分かった。
私は「エル・トポ」を見て「人間」というものは何ともエロティックで、グロテスクで、残酷で、しかしなんと美しいものか、という感想を持った。私たちがあえて目を塞ぎ、耳を塞ぎ、口を塞いできた光景を、スクリーンを通して突き付けられているような気持ちの悪い、よく分からない感覚。
「リアリティのダンス」の予告を見てきっとその感覚を、今回も味わえるのだろう、という予感めいたものを感じた。
試写会を見た人たちのレビューを見ても、概ねそのような感想が多く、ホドロフスキー監督独特の世界観は健在らしい。
商業演劇を否定し、自分の作品をアートだと語るアレハンドロ・ホドロフスキー監督の映画は、頭で考えて鑑賞するものではない。格好よく敵を倒したり、ロマンティックな大恋愛があるわけでもない。ただ「人間が生きる」ということを感じる映画なのだと私は思う。まず見て、感じて、それからこの映画がなんだったのかを考えればいいことなのだという感想だ。
「リアリティのダンス」という題名の意味については、監督本人からは語られていない。当たり前だ。アートなのだから親切に説明する必然性はない。私たち自身が想像するしかないのだ。
個人的には、ダンスとは自己表現の在り方で「生きることそのもの」という解釈に落ち着いた。
主人公の少年のリアリティ、少年の父と母のリアリティ、そしてあなた自身のリアリティについてあなたはどのような感想を抱くだろうか。
あらすじ
「リアリティのダンス」のあらすじを紹介していきたいと思う。上映時間は130分と、過去のホドロフスキー監督の監督作品と同じように長めである。
1920年代、軍事政権下のチリの田舎町で、アレハンドロ(イェレミアス・ハースコヴィッツ)は権威的な父ハイメ(ブロンティス・ホドロフスキー)と息子のことを自分の父親の生まれ変わりだと信じて疑わない母サラ(パメラ・フローレス)と暮らしていた。
アレハンドロはロシア系ユダヤ人だということで、学校ではいじめられ、家では父親から男らしさを求められ、虐待とも思える教育を受け続けていた。
神を信じない父親ハイメは山から下りてきたフリークス達に対しても暴力を振るい、火事で死んだ消防隊員のことを「神などいない。人は死んだら腐乱するだけだ」とアレハンドロに死体をよく見るように強要したりする。
そして、父ハイメは大統領の暗殺計画を企てるようになり・・・、というあらすじなのだが、このあらすじをみてハッとした方もいるかと思う。
ここで特筆したいのがキャスト・スタッフはほぼホドロフスキー性だということである。つまり血縁なのだ。父ハイメを演じるのは監督の息子で「エル・トポ」でも息子役として出演していたブロンティス・ホドロフスキー、音楽を担当しているのも監督の息子アダン・ホドロフスキー、衣装デザインは監督の奥様パスカル・モンダンドン・ホドロフスキーだ。
この作品はホドロフスキー監督の幼少時の体験を元に描かれたものだ。ホドロフスキーの世界を描くのに、家族を使うことは欠かせないことなのだろう。
ホドロフスキー監督は語っている。「これは人々の魂を癒す映画であり、映画の中で家族を再生することで、私の魂を癒す映画でもあった」と。
ちなみに、アレハンドロ・ホドロフスキーの自伝的著書「リアリティのダンス」amazonでも購入できるようなので、気になる方は著書を読んでから映画を楽しむのもいいかもしれない。
以上、「リアリティのダンス」のあらすじの紹介でした。
予告編動画
評価
- 総合点:65点/100点
- オススメ度:★★☆☆☆
- ストーリー:★★☆☆☆
- キャスト:★★★☆☆
- 映像技術:★★★☆☆
- 演出:★★☆☆☆
- 設定:★★★☆☆
作品情報
- 公開日:2014年7月12日
- 上映時間:130分
- ジャンル:人間ドラマ
- 監督:アレハンドロ・ホドロフスキー
- 主演:ブロンティス・ホドロフスキー